Tiny Talk Vol.2、今回の対談のお相手は「タイニーハウス・ムーブメント」のパイオニアたちを訪ねたロードムービー『simplife』の旅で出会った、Lina Menardさん。Linaさんは10年前、竹内さんが旅の中でもっともインスピレーションを受けた場所である、ポートランドのタイニーハウスコミュニティ「Simply Home Community」で暮らしていました。
そんなLinaさんが今年4月に来日し、10年ぶりの再会に。
これまでの10年、2人はタイニーハウスとどのように関わってきたのでしょうか。竹内さんとの対談の様子をご紹介します。
Lina Menardさん
エネルギー効率の高いタイニーハウスやADUのデザイン監修を行う「Niche Consulting(ニッチコンサルティング)」の創設者。ダウンサイジングやセルフビルドなどのワークショップを各地で開催。ポートランド州立大学の都市・地域計画の修士在学中から移動式のタイニーハウスに住み、所有物を減らし、コンパクトで意識的な暮らしの実践を続けている。現在は次のプロジェクトに向けて世界旅行をしながらリサーチ中。
タイニーハウスの先進地、ポートランドで
竹内 何から話そうか迷うところだけれど、そもそもLinaとタイニーハウスの出会いはどういうきっかけだったの?
Lina すごくさかのぼると3歳のとき、キッチン下の棚が私にとって”タイニーハウス”だったかな 笑。実際のタイニーハウスとの出会いは、15年前。同僚がDee Williamsの記事を紹介してくれて、すごく感化されてワークショップに参加したことがはじまり。大学院生として都市計画を学びながら、幸運にも知人のタイニーハウスに住むことになって、すごく貴重な体験ができたの。
竹内 それはどんな体験?
Lina 最初タイニーハウスは学校の近くに停めていたんだけど、地主さんがそれを見て自分もタイニーハウスが欲しくなっちゃって。それから仲間を集めて春休みに彼女のタイニーハウスを作ることに。そうしたら私の駐車スペースがなくなってしまったの。
竹内 自分で自分を追い出しちゃったんだね。
Lina そうそう。でも、近くに置き場所を見つけて移動することができたので大丈夫だったわ。
竹内 タイニーハウスがモバイルであることの恩恵だね。でも、トレーラーの上に作られているタイニーハウスが多いのはどうしてなんだろう?
Lina そもそもタイニーハウスムーブメントが起きた頃、アメリカ全体で住宅にまつわる問題はすごく多くて。家自体が足りていないというなかで、ゾーニングコード(都市計画法による建築規制)で住居の最小サイズが決められていて、小さな家でシンプルに暮らす選択肢が少なかったという背景があったの。
竹内 住居の最小サイズが決められているって不思議なんだよね。
Lina 日本ではそういう法律はないの?まあ、いくつか理由があると思うの。1つは居住空間が小さすぎると過密になり健康上の問題があるということ。
竹内 アメリカには昔から移民が多く、経済的な余裕がないから小さな場所に詰め込まれるように暮らしていたとかっていう話は聞いたことがあるよ。
Lina そう、そういう多くの場合衛生的ではなかったみたい。つまり、彼らの飲み水はきれいではなかったり、排泄物を処理する適切な方法がなかったりするので、病気を蔓延させやすかったの。その結果、人々が健康で正しく生きるための基本的なニーズを満たせないスラム街のような場所を生み出してしまった。
竹内 それでトレーラーの上に小屋をつくって、規制から外れたライフスタイルを発明したんだね。
Lina うん、それとポートランドにもホームレスはたくさんいたの。自治体がその状況を見て、大きな一軒家と集合住宅の中間のような存在として、ADU「Accessory Dwelling Units(母屋とは別棟の小さな居住空間)」を家として認める法律を策定して。そこから他の自治体でも、各地の状況に合わせてルールを整備するようになったの。アメリカは広い分、寒すぎたり暑すぎたり湿気が多すぎたりという自然環境的にマッチしない場所もあるから、それぞれの自治体ごとにタイニーハウスのルールができるようになったんだ。
竹内 なるほど、安全で衛生的なタイニーハウスなら問題ないということか。日本はまだタイニーハウスに関する法整備は進んでいないから、アメリカの先行事例は参考になるよ。
暮らすスペースが小さいからこそ、まわりとつながる
竹内 Linaがタイニーハウスに暮らしていたとき、どんなことを感じながら住んでた?
Lina 小さい空間に住めば住むほど、周りの環境に目が向くようになるんだって、感じたわ。季節によって変わる日の入りや、風向き、星の見え方まで。タイニーハウスは外部環境との距離が近くて、室内は自然からの影響が大きいからかな。
竹内 タイニーハウスは、気軽に置く方角も変えられるのがいいところだよね。
Lina ほんとうにそう。さっきの引越しの話だけど、最初の場所とはハウスの向きが正反対で、全く同じ空間なのに方角が違うと周辺環境との接し方が変わるのでとても面白かった。部屋の中は変わらないのに、向きを変えるだけで気分も変わるっていうのは発見だったわ。
あと、小さなスペースにどんなものを残すか、どう導入するかをデザインするのがおもしかった。いくら狭いからと言っても玄関の機能は必要だって感じたし、とくにキッチンは天井までの空間を利用して棚にするのがいいなって思ったり、いろいろと工夫したかな。
あなたのつくっているタイニーハウスも、クオリティが高くてびっくり!
竹内 ありがとう。僕は「Simply Home Community」でインスピレーションを得て、みんながホームメイドのアップルパイをつくるような気持ちで、ホームメイドの家をつくれたらと思ったんだ。
あと、空間だけではなくて、Co-housingやエコビレッジと似たコミュニティの要素を「Simply Home Community」では感じた。「Living Intentionally(意思をもって暮らす)」というのがタイニーハウスコミュニティの大切な部分にあると思っているのだけれど、どうだろう。
Lina そうね。タイニーハウスに暮らすことは、つながりを持つということだと思ってる。タイニーハウスの材料や、周りに住む人々、自然環境、そういうこととつながりを持って、意識をすること。そうやって暮らす人々のコミュニティができて、やがてムーブメントになって、「Intentional Peace(意思のある平和)」がそのコミュニティに広がっていくみたいなイメージを持っているわ。
タイニーハウスコミュニティをつづけるための工夫
竹内 今はタイニーハウスには住んでいないLinaだけれど、タイニーハウスコミュニティに住むことの難しさを感じることはあった?
Lina もちろんたくさんあったわ笑。Co-housingなどのコミュニティにあるある的なもので、アメリカではこんなジョークがあるの。「コミュニティのトラブルの元は、3Ds(Drugs, Dogs, Dishes:薬物・ペット・皿洗い)」ってね笑。
私が所属した2つのコミュニティでも、それぞれトラブルを回避できるように工夫はしてた。たとえば「Simply Home Community」では、まず「Community Living Agreement(コミュニティに住むうえでの同意事項)」をつくったことが大きかったかな。ミーティングに参加することや、料理の当番のことなど初期メンバーで出し合って定めて、新規のメンバーはそのルールに同意したうえでジョインしてもらうようにしてたの。
週2回のミーティングは、①Head:頭で考えながら議論するミーティング ②Heart:心で感じるままに話すミーティングの2つをやってたな。
竹内 それぞれのコミュニティでルール自体も、ルールのつくり方も違いそうで、おもしろいね。たとえば、料理当番があるっていう話だけれど、料理が苦手だったり、あまり役割を担いたくないっていう人はいなかったの?
Lina いたいた。料理ってコミュニケーションの上ではとてもおもしろくて、苦手で失敗したって、ある意味いい思い出になってる。どうしても忙しかったら、ピザを注文するのもOKだしね。ただ、役割を担いたくないという人は、私たちはお断りしていたかな。コミュニティに入るときに3か月のお試し期間があって、その期間でお互いに判断しあって決めていたの。「少し余計に払うから料理やミーティングは免除して。」みたいな人がいたけど、そんなのコミュニティのメンバーじゃないよね。
竹内 Co-housingコミュニティの難しいところは、時間が経つにつれてヒエラルキーのようなパワーバランスが生まれて、特定のメンバーの意見が強くなりすぎてしまうことなんじゃないかと思ったりしていて、移動式のタイニーハウスコミュニティはそこら辺を解決できるユニークさがあるんじゃないかと思うんだけど。
Lina 確かに、土地に建築した家を「所有」してしまうと流動性は低くなるよね。私たちはモノを所有する代わりに、その機能への「アクセス」をすることに着目しているから、人の入れ替わりに関してはより自由ね。
ただ、アメリカでは団体としてお金を借りるのが難しいから、Simply Home Community の場合はメンバーの1人がお金を借り、開発費を支払って、他のメンバーは毎月利用料を支払うようなシステムにしたの。そこは1つチャレンジングなところかもしれない。私たちの場合はその(ファイナンシャルな)代表メンバーの声が大きくて他の人の意見を受け入れないというようなケースにならなかったのが幸運だったわ。
所有はしていないけれど、その機能にアクセスできる代わりに「メンテナンス」は全員で分担するようにする必要があって。例えば、掃除や皿洗い、ガーデン整備や壊れたものを直したりすること、ミーティングで必要な作業のリストをつくって、基本的には作業日に全員でやるの。それぞれの得意不得意があるけど、みんなでやることでコミュニティのつながりを強くするという役割もあるのよね。自分たちの場所であるという責任感を自覚することと、何よりみんなで作業する時間が楽しかったわ。
竹内 なるほど。タイニーハウスコミュニティをどう運営していくか、すごく勉強になるよ。
Lina タイニーハウスコミュニティの魅力は、一緒にご飯を食べたり、興味のあることを学び合ったり、映画を観たり、つらいときはハグをしたり、そういうことが小さくてシンプルなスペースでできることだと思っているわ。限られた空間に住んでも、安心感のあるコミュニティに属すことができるから、心は満たされるんだって思う。
今日のこの会話をして、この後もしばらく旅は続くんだけど、またアメリカに戻ったらコミュニティの暮らしに戻りたいと思ったわ。たくさんのモノを欲しいとは思わないし、広い空間も必要ない、でも何かコミュニティの一部になるっていうのは自分らしくいられる気がするの。ありがとう。
竹内 こちらこそ、ありがとう。
==対談ここまで==
竹内 10年ぶりの再会で、タイニーハウスの文化や歴史、小さい空間利用のデザイン、コミュニティの運営などについて話が盛り上がって、2時間以上もインタビューが続きました。ムーブメント初期のワクワク感から、これを持続的に社会で活用するためのフェーズに変わってきたことを感じて、日本で実際にタイニーハウスのビレッジ(場所)とコミュニティ(人のつながり)を生み出すことができたらいいなと改めて思いました。あと、simplifeで出会った人たちが10年後の今、どんな感じで暮らしているのか見に行きたいな、と。来年はアメリカに行けるかな?
文:森野日菜子
写真:Ben Matsunaga