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【インタビュー】タイニーハウスで暮らすことは、人生のつくり手になることだった。鈴木菜央さんに聞く、小さな暮らしの4年間。

タイニーハウスと小さな暮らしを多角的に考えてみようと始まったインタビュー企画「Homemade People」。第2回目は、家族4人で4年間トレーラーハウス(タイヤ付きのタイニーハウス)に暮らしていた鈴木菜央さんにお話を伺いました。

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鈴木菜央(すずき なお)
NPOグリーンズ共同代表・チーフ関係性オフィサー/武蔵野大学工学部サステナビリティ学科准教授 バンコク生まれ東京育ち。2006年にウェブマガジン「greenz.jp」を創刊。千葉県いすみ市と東京都調布市の二拠点生活中。いすみローカル起業プロジェクト、いすみ発の地域通貨「米(まい)」、パーマカルチャーと平和道場、トランジションタウンいすみなどを共同で立ち上げ、いすみ市での持続可能なまちづくりに取り組む。武蔵野大学では、いのちがいのちをいかしあう関係性を通じてサステナビリティをつくりだせる「リジェネラティブデザイン思考」を研究中。著作に『「ほしい未来」は自分の手でつくる』など。

 

竹内友一(たけうち ゆういち)
ひみつ基地メイカー、ツリーヘッズ代表。ツリーハウスやタイニーハウスなど、その人その場所ならではのひみつ基地を制作している。2017年、小さな暮らしをテーマにしたドキュメンタリ映画「simplife」を仲間たちと製作、全国で自主上映会を不定期開催中。現在はHomemade Villageというタイニーハウスの研究と体験ができる施設を準備中。

 

「小さな家に暮らすって実際どんな感じなんだろう」と興味を持っている方は多いかもしれません。

初期費用はどのくらい? 生活費は小さくなる? 夏の暑さや冬の寒さは平気? 家族やコミュニティーとの関係は変わる?

考えれば考えるほど湧いてくるさまざまな疑問。これはもう、実際にタイニーハウスで暮らしている(暮らしていた)人の話を聞きに行こう! ということで、TREEHEADS代表・竹内の10年来の友人であり、2013年から2017年までの4年間、家族4人でトレーラーハウスに暮らしていた菜央さんを訪ねることに。


鈴木菜央さん

現在、武蔵野大学工学部サステナビリティ学科の准教授を務める菜央さんは、2013年から千葉県いすみ市で小さな暮らしを実践。4年間のトレーラーハウス暮らしとその後の一軒家での生活を経て、2022年春からは住まいを東京に移し、週に2〜3日をいすみで過ごす二拠点生活を送っています。

トレーラーハウス入手の経緯や実際に住んでわかったメリット・デメリット、今後再びタイニーハウスに暮らす可能性は? など、リアルなタイニーハウス事情を聞きました。

ここからは、小さな暮らしの実践者・菜央さんと、TREEHEADS代表・竹内による対談をお届けします。

新しい暮らしのヒントを探して、タイニーハウスにたどり着いた

竹内:菜央くんは何がきっかけでトレーラーハウス暮らしを始めたんだっけ?

菜央:2010年に東京から千葉県いすみ市に家族で移住して、船着場やスカッシュ場がある大きなログハウスに住み始めたんだよね。家賃が13万円くらいだったんだけど、いすみの辺りで13万円って言ったら相当な豪邸なのね。

竹内:そうだよね。

菜央:6部屋あって家が広い分、光熱費やメンテナンスにお金がかかるし、「この空間が空いているからテレビ台を置こう」みたいな感じで、どんどんモノが増えていって。仕事で環境問題に取り組んでいて、面白い暮らしをしようと思っていすみに来たのに、結局モノを買い、大量のゴミを出して、暮らしを維持するためにたくさん稼がないといけない生活になっていた。

それに嫌気がさして、新しい暮らしのヒントを探していたときに、タイニーハウスムーブメントを見つけてね。もう、これやー! みたいな(笑)

菜央:それで「小屋に興味がある」って周りの人に言い続けていたら、あるとき友人から「5年間住んだトレーラーハウスを売りに出すよ」って連絡がきて、千葉県山武市まで見に行ったんだよね。

実際に見たら想像していたよりも広く感じて、「あれ? アリかも」って。その後いすみに設置できそうな土地も見つかって、結構即決だったかな。

竹内:家族の反応はどうだった?

菜央:パートナーもいいねって背中を押してくれたし、子どもたちはまだ5歳と7歳で小さかったから面白がってくれたよ。


トレーラーハウス外観。床面積は150㎡→35㎡と約4分の1に(写真提供:鈴木菜央さん)

 

初期費用は意外と…! タイニーハウスのお金のこと

竹内:買うときはローンで? 低金利の住宅ローンは、トレーラーハウスには使えないよね。

菜央:そうだね。多目的ローンを使って買ったから、金利は高かった。トレーラーハウス本体が485万円で、4年かけて返済したよ。

竹内:トレーラーハウスのほかには、どんな初期費用がかかった?

菜央:土地代が150万円、土地の整地代とトレーラーハウスの輸送費が70万円、上下水道の整備・導入費が150万円。全部合わせて850万円くらいかな。

竹内:本体代以外にも結構かかるよね。小さいから安いと思いがちだけど、案外安くない。

菜央:そうなんだよね。地方なら850万円で中古の一軒家を買えるから、初期費用だけで考えると全然安くはない。

竹内:トレーラーハウスを山武市からいすみ市に持ってくるのも大変だったんじゃない?


写真提供:鈴木菜央さん

菜央:大変だった。公道を走らせるための基準緩和や特別車両運行許可の申請が必要だから、実際に輸送できたのは購入した2カ月後だったかな。特別な車で牽引していくんだけど、僕が買ったのはタイニーハウスの中ではかなり大きなタイプだったから、対向車線に完全にはみ出してた。車通りの少ない午前4時に出発して、50キロの道のりを3時間かけて走って、最後はクレーン車で吊って設置したよ。


写真提供:鈴木菜央さん

竹内:購入するときに、諸元表*や製造証明書はもらった?

菜央:車じゃないから、ないって言われた。車検も関係ないし、かといって家でもない。税金の支払い方法がわからなかったから、市役所の税務課に聞きに行ったら、前例がないから市役所の人も困っちゃって。

竹内:その辺りの法整備はこれから進めていく必要があるよね。法律上、車なのか家なのか扱いが難しいところだけど、タイニーハウスであっても税金は払った方がいいと僕も思っていて。そもそもの床面積が小さいから、税金も大きな金額にはならないはずだしね。

*諸元表…車体の構造や性能、装備に関して記された書面のこと。

 

プジョーを軽トラに乗り換えて

竹内:菜央くんたちの引越しはスムーズに終わった?

菜央:全然(笑)。引越しの3カ月前からモノを減らし始めたんだけど、それでも間に合わなかった。小さな家にフィットするくらいまでモノを減らし切るには、半年かかったんじゃないかな。もとの大きな家からはハサミが7つも出てきたよ。

逆わらしべ状態で、車はプジョーから軽トラに乗り換えて、冷蔵庫は400Lから一人暮らし用の120Lに交換してもらった。

竹内:どんどんダウンサイジングしていったんだね。実際に暮らし始めてからは、何か気になることはあった?

菜央:軒が極端に短いせいで壁に雨水がよく当たるから、壁の内部に浸水してくるようになっちゃって。壁の素材がよくなかったのかもしれないけど。

竹内:雨漏りすることはあった?

菜央:あった。特に壁がL字になっている角の部分は、輸送中にねじれたりよれたりして強い力が加わったから、雨漏りしやすかった。あとは断熱が足りなかったな。

竹内:買うときに、どの程度断熱が入っているか聞いた?

菜央:自分で調べたら、手で簡単に折れる白い発泡スチロールの断熱が30ミリしか入ってなかった。夏場、南向きの壁に陽が当たっているときは、室内が40度近くなって、とてもじゃないけどいられなかったよ。結局天井は全部、壁は半分くらい、断熱効果が比較的高い50ミリのスタイロフォームを自分で入れ直すことにした。

竹内:そしたら全然違った?

菜央:全然違った。家が小さい分、壁との距離が近くなるから、断熱の影響が大きいんだよね。僕が買ったトレーラーハウスは、別荘的な使われ方を想定していたのかもしれない。

竹内:そうだね。通年で住む目的では設計されていなかったのかも。ちなみにHOMEMADEで扱っているタイニーハウスは断熱を重視していて、天井はネオマフォームが90mm(グラスウール換算で約160 mm)、壁は同じくネオマフォームが60 mm(グラスウール換算で約100mm)、標準で入っているよ。

菜央:そうなんだね。断熱について調べていたときに、僕もネオマフォームが一番いいと思った。性能も圧倒的に高いし、ノンフロンだし。

竹内:値段はちょっと高いんだけど、やっぱり効果は違うよね。用途に合わせて、最初にきちんと設計して作ることが大事だね。ただ材料費も高騰しているから、もしいま菜央くんが持っているサイズの小屋を断熱にこだわって新築で作ると、1000万円あっても足りないかもね。

菜央:高いっていうのはデメリットだよね。しかも、ずっと住めるわけじゃないから。

竹内:菜央くんはトレーラーハウスで4年間暮らした後に一軒家に引っ越したけど、トレーラーハウスに住み続けるのは難しいと思った?

菜央:子どもたちが小さい間はよかったけど、大きくなるとそれぞれパーソナルスペースが必要になってくるから、難しいね。中学生になると部活のモノも増えて、スペース的に限界を迎えたよ。

いまは人に貸しているからわからないけど、将来的にパートナーとふたりでまたトレーラーハウスに住むのはアリだと思ってる。

竹内:ライフステージに応じて、人生のある時期に使う道具としては面白いのかもね。

菜央:そうだね。物理的な距離が近い分、心理的な距離も近くなって仲よくなるし。ケンカした時に逃げ場がなくて、一人になりたい時にややツラいっていうのはあるけどね(笑)。

モノとゴミが減り、生まれた余白

竹内:トレーラーハウスに暮らしてよかったことはある?

菜央:たくさんあるよ。ひとつは、節約しようとか意識しなくても、自動的に支出が減ったことかな。


トレーラーハウス・室内の様子(写真提供:鈴木菜央さん)

竹内:たとえばどんな支出が減った?

菜央:まず光熱費が2分の1になった。

竹内:空間が小さくなったからね。

菜央:そうそう。冬場は小さなアラジンストーブひとつで十分だし、夏場はクーラーがひとつあればだいたいOK。お風呂が小さいことも、意外と満足度が高かったよ。すぐに沸くし、浴室も狭いから冷めにくい。

竹内:なるほどね。

菜央:光熱費だけじゃなくて、全体的な支出も減った。モノを買っても置く場所がないから、買うかどうか迷わなくなったというか。広告を見ても、大きいテレビ? 関係なーい。新しい家具? 関係なーい、みたいなね(笑)。

竹内:あはははは。ほんとはもっと買いたいのにって苦しくならなかった?

菜央:案外ならなかった。物欲が自動的になくなって、むしろ楽だったな。僕はそこまで大きなインパクトを感じなかったけど、毎月の支出が減ると「今月はいくら稼がなきゃ」っていうプレッシャーも小さくなるよね。

竹内:うんうん。

菜央:家が大きいときは、常に何かしら探しものをして、切れた電球を交換し、室内を掃除して……ってモノから要求されることがすごく多かったんだよね。捨てることもストレスだったし。

竹内:たしかにね。片付けたり探したり、メンテナンスしたり処分したり、そういうことに使う時間が減ったんだね。

菜央:昔はゴミ出しのたびに重い袋をふたつ持って捨てに行っていたんだけど、トレーラーハウスに住んでからは、ゴミの量がすいぶん減った。そもそも買うモノの量が少ないし、生ゴミで堆肥を作るコンポストも始めたから。

それから家がシンプルな分、庭で何をしよう? 地域で何をしよう? ってなるのがいいと思った。子どもたちは秘密基地作りを楽しんでいたよ。廃材を使って小屋を建てて、旗を立てたり、ペンキを塗ったり。

竹内:そうなんだよね。モノが溢れているとなかなかできないけど、制限されることで逆に豊かになることはあるよねクリエティブにならざるをえないっていうか。

菜央:そうそう。


トレーラーハウス・室内の様子(写真提供:鈴木菜央さん)

竹内:いま聞いていると、よかったことも案外多いね。

菜央:多いよ。庭に出れば四季を感じられるから、自然と遠くないところにいる気持ちよさがあったし、小さなエネルギーで暮らしをまかなえるのは気分がいい。

竹内:すすめるとしたら、どんな人によさそう?

菜央:パートナーとふたりだけか、子どもがいたとしても小学校入学前かな。試しに何年か住んでみるのが一番いいのかも。

小さな暮らしのトイレ事情

竹内:上下水道で150万円って、結構かかったね。

菜央:合併浄化槽が120万円くらいしたんだよね。

竹内:あ、下水側は合併浄化槽なんだ。それは高くなるね。


写真提供:鈴木菜央さん

菜央:そう。これはひとつポイントになると思うんだけど、せっかくタイニーに暮らすなら、コンポストトイレを選択肢に入れてほしいと思っていて。120万円が浮くし、他の地域はわからないけど、僕の地域は汲み取りや清掃費で年間約2万円かかるから、その維持費も不要になる。

それに、コンポストトイレでできた堆肥を使って自分の畑で果樹を育てるってすごくいいよね。

竹内:そういう場所がすでにあるもんね。

菜央:うん。実際に取り入れている場所はあるし、持続可能な社会を考えてもそうすべきだと思うんだけど、ここは、僕とパートナーが議論したところでもあって。そのときパートナーから言われたのが、「じゃあコンポストトイレが月曜日に壊れたら、あなたは東京の仕事から帰ってきて直してくれるの?」って。

竹内:そうきたか(笑)。

菜央:結局僕らは 120万円払って合併浄化槽を入れることになった。

竹内:ひとりで生きているわけじゃないもんね。パートナーがいて子どもがいてだから、やっぱりその辺のバランスは大切だよね。

菜央:そうだね。パートナーもそういうのに興味がないことはないんだけど、「理想主義でつくったって、結局日々の暮らしの大部分をやるのは私なんだよ?」って。何も言い返せない(笑)。

ちょっと逸れちゃったけど、とにかく小屋は、大きな消費システムから逃れることを考えている人にとっては、面白い暮らし方だと思う。消費やモノの支配から自由になれるし、同時に、循環型の暮らしを始めるきっかけにもなる。コンポストトイレは難しくても、野菜クズのコンポストならできるよって人は多いかもしれない。生ゴミからできた堆肥で野菜を育てて、みんなで食べてハッピーっていう循環する暮らしを楽しむには、小屋暮らしはぴったりだと思うよ。


写真提供:鈴木菜央さん

 

モノを手放して手にした生きる自信

菜央:トレーラーハウスに暮らしていて気づいたことがあって。いままで僕は、消費によってアイデンティティーを表現していたんだよね。

竹内:モノを買うことでという意味?

菜央:うん。あとは旅行をしてSNSにアップするとかもそう。それが小さな暮らしでは、たとえば畑がアイデンティティーを表現する場になった。

竹内:生産的な活動ってことだね。

菜央:そうそう。野菜作りや家の修理、家具のDIYっていう消費を通じないアイデンティティー表現があることに気づいたんだ。

竹内:たしかにね。SNSでは「ここに行ってきました!」「これを食べました!」って消費がほとんどだよね。

菜央:それだったら、「こんなものを作りました!」「これを修理しました!」っていう方が楽しいなって。お金もかからないしね。

菜央:小さな家で暮らすためには工夫が必要で、その工夫がうまくいくと必要なお金も小さくなる。消費から生産への変化は面白かったな。DIYをしながらクリエティブに暮らしたい人にとって、小さな暮らしはとても合っていると思うよ。

竹内:そうだね。僕もHOMEMADEプロジェクトを進めながら、暮らしが趣味になると、日々をより楽しめるのかもしれないと思った。

菜央:そうなんだよ。自己表現ができる暮らしって楽しいよ。

竹内:しかも失敗できるのがいいよね。自分のことだから誰かから怒られることもないし、うまくいかないってわかったら別の方法を試してみればいい。菜央くんはトレーラーハウスを買ってから、デッキを作ったり小屋を建てたり、いろんなDIYにチャレンジしているよね。

菜央:うんうん。いまも「パーマカルチャーと平和道場」っていう友達とつくった場に、4つ目の小屋を建てているよ。整地して、何もないところからみんなで小屋を作っていくんだけど、最近ふと「ああ、人間ってずっとこうやって生きてきたんだよな」って感じたんだよね。集まって、「ここを家にしよう」「僕らが住むから手伝ってよ」って言い合いながらみんなで作って、「できたね。暮らせるね」って。こういうことを何十万年もやってきたんだよなって。


武蔵野大学工学部サステナビリティ学科(環境システム学科)の学生たちと小屋を建設中

竹内:ああ、そうだね。

菜央:家を買うとか借りるとか、消費するって本当に最近のことで。みんなで家を建てるってなんてすてきなことだろうと思った。それが大きな家だったらプロに頼まないと難しいけど、小さいと手が届くんだよね。

竹内:そうだよね。プロならではのものもあるけど、プロじゃなくてもいいものまでプロに作ってもらっているのかもしれないね。

菜央:そうそう。そう考えると、小さな暮らしを通して自分の人生のつくり手になれたことが、一番の変化かもしれない。受け身の消費者として、あれも買ってこれも買ってっていう生活じゃなくて、僕たちの暮らしをどうしていこうって主体的に考えるようになった。

何をしようかなと思えるすき間や余裕があると、全然気分が違うよね。自分であれもこれもできるってなったら、選択の幅が広がって楽しいし。消費者としての人生も自分で選べるようになる。

竹内:あ、なるほど!

菜央:べつに消費者でもいいんだよ。僕もいまは東京で消費者をやるぞって決めて、東京にいる。だけど自分で選ぶのと、それしか選択肢がないのとではやっぱり違う。消費がわるいってことではなくて、そこに主体性があるかどうかなんだと思う。

菜央:いまなら、小屋を建てる土地と20万円があれば、ひとまず暮らせる場所を作れる自信があるのね。

竹内:おー、なるほどね。

菜央:雨水も集められるし、電気もつくれる。土を作りたかったらコンポストをすればいい。そしたらあの支出もこの支出もいらない。選ぼうと思えばそんな暮らしもできる。でもいまは水洗トイレを使うよ、みたいなね。

竹内:選択肢があると、余計な心配事がなくなるね。

菜央:うん。経済危機がやってきたとしても、暮らしていく自信はあるし大丈夫。トレーラーハウス暮らしや小屋作りの経験を通じて、そんな安心感を持てるようになったかな。

(インタビューここまで)

取材の帰り道、「いまは消費者として生きることを選んでいる」という菜央さんの言葉が、頭の中でリフレインしていました。

「自分で選ぶ」ためには、目の前のモノや出来事に興味を持ち、その仕組みや背景について考え、自分なりの答えを出す必要があります。それはときに、ものすごく面倒くさい。いちいち考えている時間なんてないよって叫びたくなるかもしれない。ですが、そのプロセスこそが生きることへの信頼感や安心感につながっていくのだとしたら──。

本当に必要なものだけを手元に置く小さな暮らしは、いやが応でも面倒な問いと向き合い、歩みを止めて考えるきっかけになるはずです。そうして自分で選びつくっていく暮らしは、きっと何よりも面白い。

小さな暮らしをめぐる旅は続きます。

写真・文:赤錆ナナ @nana.akasabi